大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和63年(行コ)3号 判決 1989年11月06日

鹿児島県名瀬市金久町二一番一二号

控訴人

神田タツ

右訴訟代理人弁護士

井上脇寿一

鹿児島県名瀬市幸町一九番二一号

被控訴人

大島税務署長

木庭真利

右指定代理人

田邉哲夫

坂井正生

森武信義

松永楠男

吉川英俊

西山俊三

杉山雍治

溝口透

岩崎光憲

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  控訴人

「1 原判決を取り消す。2 被控訴人が、昭和六〇年七月四日控訴人の昭和五八年度所得税についてなした更正及び重加算税賦課決定をいずれも取り消す。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決

二  被控訴人

主文同旨の判決

第二当事者双方の主張及び証拠

当事者双方の主張は次に付加、訂正するほかは原判決事実摘示のとおりでありり証拠関係は本件記録中の原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決二枚目表五行目「宮之原有弘」の次に「(以下、「宮之原」という。)」を、同九行目「交換した」の次に「(以下、「本件交換」という。)」をそれぞれ加える。

2  同二枚目表一四行目「申告を」の次に「法定期限内に」を、同行目「同年分の」の次に「分離長期」をそれぞれ加え、同裏一行目冒頭から末尾迄を「して、その他の事業所得の金額を金一七一万二百四八〇円、納付すべき税額を金七万二〇〇〇円として申告した。」と改める。

3  同二枚目裏六行目「七月四日、」の次に「その他の事業所得の金額を金一七一万二四八〇円、分離長期譲渡所得の金額を金六五五〇万円、」を加え、同九行目「賦課決定」を「賦課処分」と改める。

4  同四枚目表一行目「重加算税の賦課決定」を「重加算税賦課処分」と、同裏六行目「更正決定」を「する本件更正処分」と、同裏六行目「更正決定」を「する本件更正処分と、同七行目「の賦課決定」を「を課する旨の本件重加算税賦課処分」とそれぞれ改める。

二  当番における補足的主張

(控訴人)

1 控訴人が、入舟の土地を金七〇〇〇万円と評価して本件交換を行うことは有り得ない。

即ち、入舟の土地と道路を挟んで向かい側に存する訴外指宿英造所有の「名瀬市入船町一一番三、宅地、一八四・四六平方メートル(以下、「本件対象地」という。)」は、昭和六三年一〇月三日、地上建物(但しその価値は僅少である。)とともに訴外竹川實に売却されたが、本件対象地は入舟の土地に比して条件が良い(地形は、本件対象地が間口の広い長方形であるのに対して、入舟の土地は間口の狭い台形であり、又固定資産の評価(昭和六三年一月一日現在)においても、本件対象地は入舟の土地に比して地積が約一五・一八平方メートル少ないにも拘わらず七四四万九〇〇〇円と評価されているのに対して、入舟の土地の評価額は五五八万九九二〇円である。)にも拘わらず、その売却代金は金三〇〇〇万円にすぎない。

更に、入舟の土地及び井根の土地の昭和五八年一月一日及び同六三年一月一日現在の各固定資産評価額は次のとおりであり、井根の土地の方が地積が約九・二三平方メートル少ないにも拘わらず、その右評価額は高くなっており、この点からも入舟の土地を井根の土地よりも高く評価することはあり得ず、路線価格にのみ準拠して交換差金が交付されたとするのは相当ではない。

昭和五八年度 昭和六三年度

入舟の土地 三六七万三三七〇円 五五八万九九二〇円

井根の土地 三八〇万一〇四〇円 六二七万六九六〇円

2 被控訴人は、宮之原から控訴人に支払われたとする交換差金三〇〇〇万円の中二二〇〇万円は森マツ子名義の預金口座から引き出されたものであると主張するが、右預金引出の頃には、宮之原は訴外園田親儀(以下「園田」という。)から隣接地を購入しており、右引出金は園田に対する売買代金として支払われた疑いが充分あり、また、その頃、宮之原は訴外宮之原寛一(以下「寛一」という。)から金員を借り受けているが、その額が金一〇〇〇万円なのか、金二〇〇〇万円なのか判然とせず、これらの点からしても交換差金の授受があったとみるのは相当でない。

(被控訴人)

1 控訴人の引用する売買事例が正常か否はさておき(なお、本件売買例は本件交換から五年以上も経過しており、しかもこの間に土地の時価が大幅に下落したことは控訴人も自認するところである。)、土地取引は個別性が強く、隣接した土地であっても取引当事者の諸事情・力関係によって取引価格が異なることは周知の事実であり、本件においても、入舟の土地は宮之原の経営する理容及び喫茶店の隣接地であり、同人にとって、当面は右両店舗の来客用駐車場として、将来的には事業の拡張を図るための用地として利用価値が高く、しかも六〇〇〇万円を超える金額での購入希望者も出現したことから、七〇〇〇万円での取得を決意したものであって、七〇〇〇万円の評価について何ら不自然な点はない。

2 路線価格は、相続税及び贈与税における評価につき、国税庁長官通達に基づいて、当該土地と状況が類似する宅地の売買実例価額、精通者の意見価額等を参酌して定められたものであって、譲渡所得等算定のための評価基準として採用され、都市部における宅地の評価の方法としてその合理性が認められている。

これに反し、固定資産評価額は、固定資産の継続的な使用収益に対する課税、即ち固定資産税のための評価額であって、同税と資産の処分による値上がり益に対する課税である所得税とはその性質、目的を異にするから、その評価方法も自ら異なるところ、固定資産評価額の算定は原則として三年に一回で、評価額が時価と著しくかい離していること、非公開の故に個々の土地の評価額が相互に均衡がとれたものか否か制度的に保証されていないこと等の問題がある。

したがって、譲渡所得の算定方法としては、固定資産評価額に比して路線価格の方がはるかに合理性がある。

3 宮之原は、昭和五八年三月一四日、菴美信用金庫の森マツ子名義の預金口座から金二二〇〇万円を引き出し、これに手持金二〇〇万円を加えた計金二四〇〇万円を交換差金の内金として控訴人に支払い、その後同月二四日、鹿児島銀行大島支店の自己名義の預金口座から金一八〇〇万円を引き出し、内金六〇〇万円を交換差金の残金として控訴人に支払、残金一二〇〇万円を園田に土地売買代金として支払っている。

また、宮之原が寛一から借り受けた金額は金二〇〇〇万円であり、鹿児島銀行大島支店の宮之原名義の預金口座に、同年三月二三日金一〇〇万円、同年四月九日金四〇〇万円、同月一九日金三〇〇万円が二口合計金二〇〇〇万円が送金されている。

理由

当裁判所も控訴人の請求は理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加、訂正するほかは原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表九行目「原告」を「原審における控訴人」と改め、同一〇行目「第八、」の次に「第二五、」を同行目「第二六号証、」の次に「原本の存在、成立とも争いのない甲第三八号証(但し、書き込み部分を除く)、」を、同一一行目及び一二行目「証人」の前に「原審」をそれぞれ加え、同一四行目「第四号証の二、三、」を「第四号証の一乃至三」と改め、同裏三行目「証人」の前に「原審及び当審」を加え、同行目「同」を「原審証人」と、同行目「原告」を「原審における控訴人」と、同四行目「証人」から同六行目「措信し得ず、」迄を「これに反する原審証人碩怒栄盛、原審における控訴人本人の各供述部分はたやすく措信し難く、」とそれぞれ改める。

2  同五枚目裏八行目冒頭から同九行目「理容業を」迄を「土地の東側隣接地である名瀬市入舟町一二番一の土地上に存する園田所有の建物の一階部分の半分を賃借して理容店を、右土地の更に東側隣接地である自己所有の名瀬市入舟町一二番三及び同番五の土地で喫茶店をそれぞれ」と、同一一行目の「碩怒」を「碩怒」と、それぞれ改める。

3  同六枚目表一行目「原告」の前に「他に買受け希望者が現れたこともあって、」を加え、同行目から次行にかけての「価価」を「価額」と、同二行目「多額」を「高額」と、同四行目「結局、」を「種々協議の結果、昭和五八年三月一四日迄に、」とそれぞれ改める。

4  同六枚目表八行目「昭和五八年三月一四日」を「右同日」と、同一二行目「交換登記」を「交換を原因とする所有権移転の登記手続」と、同裏一行目「支払った。」を「、残金一二〇〇万円を園田から買受けた土地の代金としてその頃同人に各支払った。」とそれぞれ改める。

5  同六枚目裏二行目「本件交換」から同八行目「これを」迄を「本件交換に際して作成された契約書(甲第一号証)には、交換差金三〇〇〇万円の支払いについて何ら触れられていないが、これは控訴人から宮之原に対して右交換差金三〇〇〇万円は所謂裏金として処理したいので、契約書には記載しないで欲しい旨の申出があり、同人もこれを承諾したためであり、更に控訴人は、本件交換を原因とする所有権移転の登記手続が完了し、残りの交換差金も受領した後、宮之原に架電して、右交換差金受領の際同人に対して発行・交付した領収書二通を速やかに破棄するよう申入れたので、宮之原は右申入に従って交付された領収書二通を直ちに」と改める。

6  同七枚目表七行目「証人」の前に「前掲」を加え、同八行目「すでに」から同九行目「所得とする」迄を「当初、本件交換は等価交換であるとして、これを前提とする確定申告をしていたが、その後本件交換は交換差金三〇〇〇万円が支払われたものであるとして、その旨の」と、同一三行目「原告」を「原審における控訴人」とそれぞれ改め、同裏一行目「井根の土地」の前に「本件交換によって取得した」を加え、同行目「本件交換の」を削り、同三行目「全く」を「路線価格等(なお、固定資産評価額は、その目的、性質等に照らして、取引価格の評価資料としては必らずしも適当ではない。)通常取引に際して参照すべき資料を全く考慮せずに、両土地は略等価であるとして、その主張のような」と、同五行目「前示供述」を「等価交換をいう前示供述」とそれぞれ改める。

7  同七枚目裏六行目と七行目の間に「また、控訴人は、宮之原が寛一から借り受けたとする金額が判然としない旨主張するが、乙第二〇乃至第二三号証(弁論の全趣旨により原本の存在、成立とも認められる。)によれば、宮之原が寛一から鹿児島銀行大島支店の宮之原名義の預金口座に、同年三月二三日金一〇〇万円、同年四月九日金四〇〇万円、同月一九日金三〇〇万円が二口合計金二〇〇〇万円が送金されていることが認められる。」を挿入する。

そうすると、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条により棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 澤田英雄 裁判官 郷俊介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例